- 培養表皮によるニキビあと・きずあと・やけどあとの治療 -

当院での培養表皮移植手術は、2001年7月 当院開院後  合計195例 です。 (12/05/02 現在)

当院開院前にも、聖マリアンナ医科大学、久留米大学病院で
400例の培養表皮による治療を行った実績があります。


培養表皮移植の治療はすでに世界的に認められ、確立されており、この方法を開発したハーバード大学の

Green 教授に直接ご指導、ご協力いただいた成果です。

矢永クリニック院長矢永博子は、1985年4月に聖マリアンナ医科大学で、熊谷憲夫先生とともに、

日本で初めての培養表皮移植に成功しました。1985年より聖マリアンナ医科大学、久留米大学病院で

400例 の培養表皮による治療実績を積み、2001年に矢永クリニックを開院しました。




熊谷憲夫教授(左) 私(中央) Green 教授(右)




Green 教授(左) 私(中央) Green 教授奥様(右)


     2010年9月27日、恩師であるハーバード大学のGreen 教授(左)が米国でたいへん権威のある

     Warren Alpert 賞を受賞されたときに、受賞式に出席したときの私。右は Green教授の奥様。


当院では、尊敬するGreen 教授の開発されたGreen 法を研究、治療に応用しています。

本来は重傷のやけどの患者さんの命を救うために研究開発された治療法です。患者さんのわずかな

皮膚を採取し、組織培養の技術を用いて培養することにより、培養表皮は生みだされます。

長年の臨床経験により、やけどあと・きずあと・ニキビあとにも応用可能となり、良い治療成績がえられて

います。当院は院内に組織再生研究所を併設し専属の研究室職員が日々患者さんからお預かりした

皮膚を育てています。



表皮細胞培養の研究と臨床応用開始 1984年〜 当時の私です




2010年9月Harvard Medical School の前で
(1989年にハーバード大学のGreen 教授のもとで研究をしていました)




当院の研究員が表皮細胞を培養しているところ




培養中の表皮細胞が生き生きと活発に成育する様子


従来の治療と何がことなるのでしょうか?

たとえば、ニキビあとの治療として、従来はグラインダーやレーザーでニキビあとのでこぼこした表層を削る

(アブレージョン)手術を行い、その後は軟膏を塗りながら上皮化(傷がなおること)を待つ治療が主体でした。

現在もこの方法は他の施設では行われています。しかし、その削った皮膚の上に自分の培養表皮を移植

すると治癒が促進され、より短時間で、よりなめらかな、平坦な状態に近づくということがわかりました。

1997年より矢永博子はにきびあとに対して培養表皮移植を応用することをはじめました。


培養表皮とともに培養線維芽細胞が必要でしょうか?

皮膚は表皮と真皮から形成されています。火傷は皮膚の全部がなくなることがあります。その場合は表皮と

真皮が必要です。しかし、にきびは皮膚の全部の深さの病変ではありません。健康な真皮は残っています。

ですから真皮由来の線維芽細胞を移植する必要はないのです。私は28年の間、表皮細胞と線維芽細胞の

どちらも培養してきましたのでその適応は熟知しています。また、表皮細胞に含まれる創傷治癒に関与する

サイトカインは線維芽細胞よりはるかに多く含まれており、表皮細胞が真皮側に直接接着するとで、細胞間

相互作用がおこり、にきびの病変である瘢痕を治療してくれます。



培養表皮による治療の流れ (例:ニキビあと治療の場合)

1) まず受診していただき、培養表皮による治療が適応するかどうかを診断します。

  この時点で治療を希望される場合は、採血し術前検査として感染症(ウイルス肝炎・梅毒血精反応・HIVetc)

  一般検血・凝固系検査を行います。結果が出るまで数日かかります。

  感染症検査で陽性の反応が出た場合は他の方の培養細胞への感染の危険性を考慮し、残念ながら、

  この治療はお断りしております。やむを得ないものと考えています。


2) つぎに日をあらためて皮膚採取を日帰りで局所麻酔下で行います。皮膚の採取は、治療目的に応じて耳のうしろ・

  わきの下など目立ちにくい場所を選んで行っています。皮膚採取部の傷の処置はご自身で行っていただきます。

  縫合を行って抜糸が必要な場合、遠方の方は当院でなく近くの医療機関にお願いしてもかまいません。

  どの部位からどのような方法で皮膚を採取したか、また患者さんがどこにお住まいかで皮膚採取後の

  スケジュールは異なりますので、来院された際に打ち合わせを行っています。


3) 皮膚を採取してから手術が可能な状態まで最短で約1ヶ月半の培養の期間が必要です。培養に時間がかかる

  ケースもありますし、せっかくいただいた皮膚からうまく細胞が育たず、もう一度皮膚を採取するケースもあります。

  ヒトの組織を培養するということは、図面を引いてモノや建物を作ることとはかなり異なります。計画・予定通りに

  いかないこともあります。まずこのことをご理解下さい。植物に水や栄養を与え、お日様にあたるように大切にして

  気遣いながら素敵な草花を育てていくような過程をイメージして下さい。



4) 細胞の状態や患者さんご自身のご予定を調整しながら手術日を決定します。できるだけ患者さんの希望に沿う

  ように手術日を決めたいのですが、なによりも優先しなければならないのは培養細胞の状態です。

  培養細胞が不十分な状態で手術を無理に行ってもよい治療結果は得られません。


5) 手術はニキビあと・きずあと・やけどあとそれぞれ、何に対して治療を希望されるのかで手術方法も若干異なります。

  これは当院が患者さん個々の状態に応じて選択しています。たとえば広範囲の顔のニキビあとの場合は全身

  麻酔下で御本人が希望される部位をレーザー(日本では数が少ない特殊なものです)で削ります。

  治療の範囲によって麻酔方法は異なります。できるだけたいらな状態に近づけます。その上にあらかじめ培養した

  御本人の培養表皮を移植します。培養表皮の上は特殊な創傷被覆材料でおおわれており、一緒に糸で縫いつけ

  ます。その上をガーゼでおおいます。手術後は福岡市近郊の方は日帰りで自宅へもどられますが、当院は全国より

  患者さんがいらっしゃることが多いので福岡市中央区天神周辺のホテルをご紹介しています。

  通院は手術当日、手術翌日と術後2日目は抗生剤の点滴を当院で行います。手術創(培養表皮を移植した部位)の

  処置は、面積・出血・浸出液の程度によりその都度判断して行っています。培養表皮の治療をさまたげるものとして、

  感染(細菌感染により培養表皮が溶けてしまいます)機械的刺激(夜寝ている間に、無意識にひっかいてずれて

  しまったり、術後に飲酒されて安静が保てず、ずれてしまうこと)などがあります。できるだけそういったことが

  おこらないよう私たちも配慮しておりますが、移植後の療養期間は安静にされ無理のない生活をおくっていただく

  ことについても、患者さんみなさんのご自身の自覚と努力が必要です。固定部の抜糸は術後5日目を目安に

  行います。 創傷被覆材がほぼ全体的にとれてしまうのは術後7日目ごろです。この時期の皮膚は機械的刺激に

  弱く、すりむけたり、出血しやすいので十分注意が必要です。状態に応じて軟膏類を処方します。


以上のスケジュールからするとニキビあとの培養表皮による治療を行う場合、遠方からこられる場合は手術日を含め

8日間の福岡の滞在となります。創傷被覆材・ガーゼ類がとれてからの日常生活についてはお帰りになる際に説明

します。仕事や学業への復帰の際は、移植部に対して本来はなんらかの保護をすることが治療上望ましいので、

そのように指導しています。小範囲のうすいガーゼの上を肌色テープでかくして職場に出たり、カバーマークという

化粧品でかくして出たりと皆さん工夫されています。まわりの方には『こけてすりむいた傷『軽いやけどをした』などの

説明をされているようです。この時期の皮膚は、弱く、赤みが強いです。程度に差はあれ、みなさんにおこりうる

ことは、続発性の色素沈着です。とにかくまず日焼け対策が大切です。紫外線が大敵なので、患者さんがたに日常

行っていただくことは、日焼け止めをしっかりぬること、直射日光の当たる場所はできるだけさけること、帽子など

かぶること、あまり強くこすらないことなどです。薬物治療としてはビタミンC、トラニラストの内服を行います。

トラニストの副作用は膀胱炎症状です。排尿時の違和感・痛み・頻尿・血尿などありましたらすぐに中止してください、

そして当院に御報告下さい。通常、中止されれば症状は短期間でおさまります。

しつこいようですが移植部の皮膚の赤み・色素沈着は程度に差はあれ一定期間は全員に必ず起こります。


そして約6ヶ月の経過で改善していきます。(個人差もあり、約1年程度の時間を要す方もいらっしゃいます)

この時期の皮膚の状況に一喜一憂せず、あまり神経質にならずに、日常生活に注意して、内服薬や外用剤を

使用してください。


以上記載したことは、例として顔のニキビあとの治療の場合です。きずあとや、やけどあとなど体の部位も異なり、

面積も異なり、麻酔・手術法・術後の安静・固定法などケース・バイ・ケースですのでやはり診察させていただいた

うえでお話することが適切な回答となるでしょう。


治療結果

私はこれまで1984年より培養表皮についての研究と臨床応用を続けてきました。私が思うに、この治療法の結果は、

みなさんの主観、みなさんがこうなりたい、ここまでなったらいいなあ、と想像するレベルの約50%程度だと思います。
 

近年の様々な努力、工夫で治療成績は向上傾向にあります。しかし過大な期待は禁物です。

ニキビあとのでこぼこが完全にたいらになるわけでもありません。ニキビができはじめる前のつるつるの肌にもどる

わけでもありません。
この治療には、確実に限界があります。でもこのホームページにたどりつかれた方は、これまで

いろいろな治療をうけられてこられ、また勉強もしていらっしゃる方が多いと思います。あまり結果の出なかった医療

行為にたくさんの治療費を支払ってこられた方もいらっしゃるでしょう。でも、ニキビあと・きずあと・やけどあとの治療に

培養表皮以外でこれだけの治療効果をあげられるものが現時点で存在するでしょうか?

もしあればまずその治療を受けてみてください。いろいろな治療を試みられて、他に方法がないとご自分で確信を

もたれてから培養表皮による治療に臨まれても良いと思います。私は決して無理にこの手術を勧めることはしてい

ません。ニキビあとは生命や身体機能に関係ないことです。あくまでも個人の人生観、価値観に基づく治療だからです。


《ニキビ治療》 でほんとうに大切なことは、ニキビがまさに花盛り・もえさかっているときに適切な治療を継続的に

行うことです。ニキビは生活習慣や体質など患者さん個々の要因がとても大きい慢性疾患です。

ですから、《ニキビ治療》と《ニキビあと治療》は根本的に考え方が異なるものだということを理解して下さい。


《ニキビあと治療》は本当に難しい治療なのです。

レーザーアブレージョン+くりぬき+自家増殖因子成分添加+培養表皮移植法を行うようになって、最近の治療結果は

かなり改善されました。皮膚表面の微細な構造、変化を観察できるダーマスコープを用いると、医師による客観的評価

では60~70%改善しています。患者さんご自身の主観による評価と医師による客観的評価は必ずしも一致しません。

ある意味これはやむを得ないことなのかもしれません。治療結果の改善は術式の改良、改善、長年のノウハウの

蓄積によるものです。治療の難しいにきびあとで悩んでいる方はぜひ相談してください。


 NEW! レーザーアブレージョン+くりぬき+自家増殖因子成分添加+培養表皮移植法


 これまで培養表皮を用いたにきびの治療は凹凸の部位をCO2 UltraPulse laser でけずって自家の培養表皮を移植

していました。この方法では中等度の凹凸には対処できましたが、深い凹凸部分の改善が不十分な場合がありました。

そこで、まず深い部分の凹凸部をくりぬいて切除し、その部位へ本人の血清から得た増殖因子成分を添加し、さらに

培養表皮を移植するという新しい方法を開発しました。


  この方法では改善度が向上しました。この治療を受けられた患者さんの写真を参考にしてください。