- 培養表皮を用いた”外傷後の傷あと、手術後の傷あと、
やけどあと、植皮後の傷あとやニキビあと”の治療 -

当院での培養表皮移植手術は、2001年7月 当院開院後  合計262例 です。 (17/01/19 現在)  
当院開院前にも、聖マリアンナ医科大学、久留米大学病院で
400例の培養表皮による治療を行った実績があります。
 


 私はこれらの傷あとに対して、培養表皮を用いた治療を1985年から、約25年間途絶えることなく継続してきました。この方法の利点も欠点もすべて知り尽くしています。これまで治療ができないといわれた傷あとも、患者さんと一緒に治療してゆくことができます。また、培養表皮移植にかぎらず、傷あとをみれば、どの方法がよいかを患者さんに提示することができます。また、瘢痕の治療についても、これまで約25年間に行ってきた症例数は2000例以上あります。瘢痕の治療のプロでもあるといえます。傷あとは受傷機転や起因により様々です。その中で、幅の狭い線状の傷あとは従来の形成外科の手術手技で縫い縮めることにより目立たなくなります。しかし幅の広い傷あと、いわゆる広範囲瘢痕の治療は
これまで有効な方法はありませんでした。

 組織拡張器という器具を皮膚の下に挿入し、瘢痕と隣接する正常な皮膚をできるだけ膨らませて伸ばして幅の広い瘢痕を切除し、正常な皮膚に置き換える方法もありますが、この方法にも限界があります。 というのは組織拡張器を用いる瘢痕の治療は皮膚を伸展するには通常数ヶ月かかります。このため、顔面や上肢などでは正常な皮膚を膨らませる間は、日常生活に制限を生じ、制限のある期間を必要とします。

 健康な皮膚を体の他の場所から採取し、移植する皮膚移植も行われてきました。それらを治すために頻回に追加の自家皮膚移植手術が必要になります。したがって、患者のその後の人生に身体や精神面においても大きな影響をおよぼすという問題があります。縫い目が残る。皮膚の色調がことなるなど問題が残ります。また、レーザー治療も瘢痕には効果がありませんでした。


 次に培養表皮移植を用いた傷あとの治療について

培養表皮移植の利点は

  ① わずか切手大の皮膚片を耳介後部の溝のところより採取し、縫合するのみなので、
    ドナー(皮膚を採取するところ) の傷は耳の後ろの溝に一致して線状になり目立ちません。

  ② 従来の皮膚移植や縫合術のようなでこぼこした縫い目がないことです。

  ③ 培養表皮から産生されるサイトカインが創傷治癒を促進するため、
    傷が早く治り、傷あとが従来の方法よりはるかにきれいになります。

  ④ サイトカインによる創傷治癒促進効果により、移植部の瘢痕が柔らかくなります。

  ⑤ もう1つの特徴は治療期間中の除痛効果がきわめて優れていることです。


培養表皮移植の欠点は

  ① 培養期間を要すること

  ② 広い瘢痕の治療では入院やホテル滞在の期間を要すること

  ③ 培養表皮作成のためのコストがかかるため、他の治療より高価であること


 まずは患者さんご自身が来院して、私が傷あとをみることから、治療が始まります。もう治療はできないとあきらめないでまず、相談してください。また他の病院で治療したあとでも、心配せずに相談してください。



培養表皮移植の治療はすでに世界的に認められ、確立されており、この方法を開発したハーバード大学のGreen 教授に直接ご指導、ご協力いただいた成果です。矢永クリニック院長矢永博子は、1985年4月に聖マリアンナ医科大学で、熊谷憲夫先生とともに、日本で初めての培養表皮移植に成功しました。1985年より聖マリアンナ医科大学、久留米大学病院で400例 の培養表皮による治療実績を積み、2001年に矢永クリニックを開院しました。




熊谷憲夫教授(左) 私(中央) Green 教授(右)




Green 教授(左) 私(中央) Green 教授奥様(右)


     2010年9月27日、恩師であるハーバード大学のGreen 教授(左)が米国でたいへん権威のある

     Warren Alpert 賞を受賞されたときに、受賞式に出席したときの私。右は Green教授の奥様。



 当院では、尊敬するGreen 教授の開発されたGreen 法を研究、治療に応用しています。本来は重傷のやけどの患者さんの命を救うために研究開発された治療法です。患者さんのわずかな皮膚を採取し、組織培養の技術を用いて培養することにより、培養表皮は生みだされます。

 長年の臨床経験により、やけどあと・きずあと・ニキビあとにも応用可能となり、良い治療成績がえられています。当院は院内に研究所を併設し専属の研究室職員が日々患者さんからお預かりした皮膚を育てています。




表皮細胞培養の研究と臨床応用開始 1984年〜 当時の私です




2010年9月Harvard Medical School の前で
(1989年にハーバード大学のGreen 教授のもとで研究をしていました)





当院の研究員が表皮細胞を培養しているところ




培養中の表皮細胞が生き生きと活発に成育する様子


従来の治療と何がことなるのでしょうか?

 たとえば、ニキビあとの治療として、従来はグラインダーやレーザーでニキビあとのでこぼこした表層を削る(アブレージョン)手術を行い、その後は軟膏を塗りながら上皮化(傷がなおること)を待つ治療が主体でした。現在もこの方法は他の施設では行われています。
しかし、その削った皮膚の上に自分の培養表皮を移植すると治癒が促進され、より短時間で、よりなめらかな、平坦な状態に近づくということがわかりました。1997年より矢永博子はにきびあとに対して培養表皮移植を応用することをはじめました。

培養表皮とともに培養線維芽細胞が必要でしょうか?

皮膚は表皮と真皮から形成されています。火傷は皮膚の全部がなくなることがあります。その場合は表皮と真皮が必要です。しかし、にきびは皮膚の全部の深さの病変ではありません。健康な真皮は残っています。ですから真皮由来の線維芽細胞を移植する必要はないのです。私は28年の間、表皮細胞と線維芽細胞のどちらも培養してきましたのでその適応は熟知しています。また、表皮細胞に含まれる創傷治癒に関与するサイトカインは線維芽細胞よりはるかに多く含まれており、表皮細胞が真皮側に直接接着するとで、細胞間相互作用がおこり、にきびの病変である瘢痕を治療してくれます。

培養表皮による治療の流れ (例:ニキビあと治療の場合)

1) まず受診していただき、培養表皮による治療が適応するかどうかを診断します。  この時点で治療を希望される場合は、採血し術前検査として感染症(ウイルス肝炎・梅毒血精反応・HIVetc) 一般検血・凝固系検査を行います。結果が出るまで数日かかります。感染症検査で陽性の反応が出た場合は他の方の培養細胞への感染の危険性を考慮し、残念ながら、この治療はお断りしております。やむを得ないものと考えています。


2) つぎに日をあらためて皮膚採取を日帰りで局所麻酔下で行います。皮膚の採取は、治療目的に応じて耳のうしろ・  わきの下など目立ちにくい場所を選んで行っています。皮膚採取部の傷の処置はご自身で行っていただきます。  縫合を行って抜糸が必要な場合、遠方の方は当院でなく近くの医療機関にお願いしてもかまいません。  どの部位からどのような方法で皮膚を採取したか、また患者さんがどこにお住まいかで皮膚採取後のスケジュールは異なりますので、来院された際に打ち合わせを行っています。

3) 皮膚を採取してから手術が可能な状態まで最短で約1ヶ月半の培養の期間が必要です。培養に時間がかかる ケースもありますし、せっかくいただいた皮膚からうまく細胞が育たず、もう一度皮膚を採取するケースもあります。 
ヒトの組織を培養するということは、図面を引いてモノや建物を作ることとはかなり異なります。計画・予定通りにいかないこともあります。まずこのことをご理解下さい。植物に水や栄養を与え、お日様にあたるように大切にして気遣いながら素敵な草花を育てていくような過程をイメージして下さい。

4) 細胞の状態や患者さんご自身のご予定を調整しながら手術日を決定します。できるだけ患者さんの希望に沿うように手術日を決めたいのですが、なによりも優先しなければならないのは培養細胞の状態です。培養細胞が不十分な状態で手術を無理に行ってもよい治療結果は得られません。


5) 手術はニキビあと・きずあと・やけどあとそれぞれ、何に対して治療を希望されるのかで手術方法も若干異なります。これは当院が患者さん個々の状態に応じて選択しています。たとえば広範囲の顔のニキビあとの場合は全身麻酔下で御本人が希望される部位をレーザー(日本では数が少ない特殊なものです)で削ります。治療の範囲によって麻酔方法は異なります。できるだけたいらな状態に近づけます。その上にあらかじめ培養した御本人の培養表皮を移植します。培養表皮の上は特殊な創傷被覆材料でおおわれており、一緒に糸で縫いつけます。その上をガーゼでおおいます。手術後は福岡市近郊の方は日帰りで自宅へもどられますが、当院は全国より患者さんがいらっしゃることが多いので福岡市中央区天神周辺のホテルをご紹介しています。

  通院は手術当日、手術翌日と術後2日目は抗生剤の点滴を当院で行います。手術創(培養表皮を移植した部位)の 処置は、面積・出血・浸出液の程度によりその都度判断して行っています。培養表皮の治療をさまたげるものとして、感染(細菌感染により培養表皮が溶けてしまいます)機械的刺激(夜寝ている間に、無意識にひっかいてずれてしまったり、術後に飲酒されて安静が保てず、ずれてしまうこと)などがあります。できるだけそういったことがおこらないよう私たちも配慮しておりますが、移植後の療養期間は安静にされ無理のない生活をおくっていただくことについても、患者さんみなさんのご自身の自覚と努力が必要です。固定部の抜糸は術後5日目を目安に行います。創傷被覆材がほぼ全体的にとれてしまうのは術後7日目ごろです。この時期の皮膚は機械的刺激に弱く、すりむけたり、出血しやすいので十分注意が必要です。状態に応じて軟膏類を処方します。

以上のスケジュールからするとニキビあとの培養表皮による治療を行う場合、遠方からこられる場合は手術日を含め8日間の福岡の滞在となります。創傷被覆材・ガーゼ類がとれてからの日常生活についてはお帰りになる際に説明します。仕事や学業への復帰の際は、移植部に対して本来はなんらかの保護をすることが治療上望ましいので、そのように指導しています。小範囲のうすいガーゼの上を肌色テープでかくして職場に出たり、カバーマークという化粧品でかくして出たりと皆さん工夫されています。まわりの方には『こけてすりむいた傷『軽いやけどをした』などの説明をされているようです。この時期の皮膚は、弱く、赤みが強いです。程度に差はあれ、みなさんにおこりうることは、続発性の色素沈着です。とにかくまず日焼け対策が大切です。

 紫外線が大敵なので、患者さんがたに日常行っていただくことは、日焼け止めをしっかりぬること、直射日光の当たる場所はできるだけさけること、帽子などかぶること、あまり強くこすらないことなどです。薬物治療としてはビタミンC、トラニラストの内服を行います。トラニストの副作用は膀胱炎症状です。排尿時の違和感・痛み・頻尿・血尿などありましたらすぐに中止してください、そして当院に御報告下さい。通常、中止されれば症状は短期間でおさまります。


しつこいようですが移植部の皮膚の赤み・色素沈着は程度に差はあれ一定期間は全員に必ず起こります。


 そして約6ヶ月の経過で改善していきます。(個人差もあり、約1年程度の時間を要す方もいらっしゃいます)この時期の皮膚の状況に一喜一憂せず、あまり神経質にならずに、日常生活に注意して、内服薬や外用剤を使用してください。


以上記載したことは、例として顔のニキビあとの治療の場合です。きずあとや、やけどあとなど体の部位も異なり、面積も異なり、麻酔・手術法・術後の安静・固定法などケース・バイ・ケースですのでやはり診察させていただいたうえでお話することが適切な回答となるでしょう。

治療結果

 私はこれまで1984年より培養表皮についての研究と臨床応用を続けてきました。以前の治療結果は私が思うに、この治療法の結果は、みなさんの主観、みなさんがこうなりたい、こ こまでなったらいいなあ、と想像するレベルの約50%程度でした。
 しかし。 ここ数年、①レーザーアブレージョンの方法、深さを改良する ②くりぬき法を加える ③自家血液から 創傷治癒因子をとりだして陥凹部に注入するなど、再生医療を用いざまざま改良した結果、70%くらいに向上しました。また、患者さんの中 では80%くらいまで満足されている方もいます。
 近年の様々な努力、工夫で治療成績は向上傾向にあります。確かに過大な期待は禁物ですが、よりよい治療になったと思い ます。

 ニキビあとのでこぼこが完全にたいらになるわけでもありません。ニキビができはじめる前のつるつるの肌にもどるわけでもありません。この治療には、確実に限界があります。でもこのホームページにたどりつかれた方は、これまでいろいろな治療をうけられてこられ、また勉強もしていらっしゃる方が多いと思います。あまり結果の出なかった医療行為にたくさんの治療費を支払ってこられた方もいらっしゃるでしょう。でも、ニキビあと・きずあと・やけどあとの治療に培養表皮以外でこれだけの治療効果をあげられるものが現時点で存在するでしょうか?

 もしあればまずその治療を受けてみてください。いろいろな治療を試みられて、他に方法がないとご自分で確信をもたれてから培養表皮による治療に臨まれても良いと思います。私は決して無理にこの手術を勧めることはしていません。ニキビあとは生命や身体機能に関係ないことです。あくまでも個人の人生観、価値観に基づく治療だからです。


 《ニキビ治療》 でほんとうに大切なことは、ニキビがまさに花盛り・もえさかっているときに適切な治療を継続的に行うことです。ニキビは生活習慣や体質など患者さん個々の要因がとても大きい慢性疾患です。ですから、《ニキビ治療》と《ニキビあと治療》は根本的に考え方が異なるものだということを理解して下さい。《ニキビあと治療》は本当に難しい治療なのです。

 レーザーアブレージョン+くりぬき+自家増殖因子成分添加+培養表皮移植法を行うようになって、最近の治療結果はかなり改善されました。皮膚表面の微細な構造、変化を観察できるダーマスコープを用いると、医師による客観的評価では60~70%改善しています。患者さんご自身の主観による評価と医師による客観的評価は必ずしも一致しません。ある意味これはやむを得ないことなのかもしれません。治療結果の改善は術式の改良、改善、長年のノウハウの蓄積によるものです。治療の難しいにきびあとで悩んでいる方はぜひ相談してください。

 NEW! レーザーアブレージョン+くりぬき+自家増殖因子成分添加+培養表皮移植法

 これまで培養表皮を用いたにきびの治療は凹凸の部位をCO2 UltraPulse laser でけずって自家の培養表皮を移植していました。この方法では中等度の凹凸には対処できましたが、深い凹凸部分の改善が不十分な場合がありました。そこで、まず深い部分の凹凸部をくりぬいて切除し、その部位へ本人の血清から得た増殖因子成分を添加し、さらに培養表皮を移植するという新しい方法を開発しました。

  この方法では改善度が向上しました。この治療を受けられた患者さんの写真を参考にしてください。


 「マイクロリポ(微小脂肪移植)による若返りとエイジングケア」

 マイクロリポとはご自身の脂肪をお腹や太ももから注射器で採取し、従来の脂肪吸引の脂肪より非常に小さい脂肪(マイクロリポ)に処理して目の下、ほほ、ホウレイ線、口唇のしわに脂肪注入する方法です。ご自分の組織なので、ヒアルロン酸やコラーゲンのように吸収されてなくなることはありません。

 また、従来の脂肪吸引の脂肪の定着は50%程度でしたが、マイクロリポは注入した脂肪の約80%以上は残ります。生着するとそのまま長期間残ります。この点が他の注入療法と異なります。 ほほ(中顔面)、ホウレイ線、口唇のしわに効果的です。また、目の下の目袋が目立つかた、目の下がやせてしわになっている方にも効果的です。若返りの方法としては非常に効果的で、びっくりするほど若返るので患者さんは大変満足します。また、2日目から顔も洗えますし、お化粧もできます。手術は局所麻酔+静脈麻酔をするので痛みはありません。安心して受けられて下さい。


  「口唇裂従来の外科的治療を終了しても残こる、鼻の変形や口唇のきずあとが目立つ方はぜひ相談して下さい。新しく再生医療を応用した治療が行えます。

 鼻の変形に関しては自家組織(耳介軟骨、筋膜)を用いた整鼻術を行います。上口唇や鼻のきずあとが広い場合や段差があるは再度縫合し、その上に自家の培養表皮を移植します。そうすると表皮単位できずが治ってゆきますので非常に目立たなくなります。きずあとが細くても目立つ場合はレーザーで表面を削り、自家の培養表皮を移植する治療が行えます。」