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   再生医療を用いた乳房再建


 昨年(2015年)、再生医療の安全性確保等に関する法律が公布されこの法律に対応して、当院は5つの再生医療の細胞加工施設として認定されました。その1つである自家培養脂肪移植の再生医療提供施設として認定されました。その他の再生医療として自家培養表皮移植、自家培養軟骨細胞移植、自家培養線維芽細胞注入、自家PRP注入も許可されました。矢永博子は長年、約30年間にわたり、再生医療の研究と治療を継続して取り組んできました。これらの治療法がこの度、承認されて継続して治療を行うことが認可されたことは喜ばしいことです。患者さんにとってよりよい高度の治療の提供ができるようになり本当によかったと思っています。その豊富な経験をもとに、当院では再生医療を用いた乳房再建を2種類行っていますのでぜひ相談されて下さい。


1.培養脂肪移植による乳房再建

 ご自身の脂肪を腹部や大腿からごく少量を採取して、体外で脂肪細胞を培養して増やしたのち、ご自身の脂肪組織と混合して、体内へ移植するという新しい治療です。対象疾患等は、乳がん手術後の乳房欠損、乳房温存術後の乳房変形、乳房低形成、乳房萎縮、胸郭の変形を伴う漏斗胸、顔面萎縮等の皮下脂肪や皮下組織の欠損、変形、または低形成に適応できます。本治療は培養脂肪細胞とご自身の脂肪のコンビネーションで脂肪の生着が向上し、治療成績が良好になるという治療法です。また、従来の脂肪注入に比べて生着率が80%以上と安定しています。石灰化や嚢腫などの形成はほとんどみられません。健側乳房に似た柔らかい乳房が形成されること、また冷たい乳房でなく体温と同じ暖かさの乳房が形成できることが利点です。


これまでの治療との違いは?

 1) インプラントを用いた乳房再建

 インプラントを用いた乳房再建は2年前に保険適応になり、多くの乳がん患者さんがより乳房再建手術を受けやすくなったということは素晴らしいことでした。インプラントの利点は手術時間が短く、体への負担が少ないこと、入院期間が短く、社会復帰が早いことです。また比較的乳房形態も得やすいことです。しかしインプラントは人工物ですので、以下のような欠点もあります。

 ① 破損 (感染、外傷により破損の危険性や経年的変化によるバッグの劣化による破損の可能性があります)、②被膜拘縮(インプラントの周りに膜ができて厚く硬くなり収縮することにより変形や痛みを生じる)、③違和感(インプラントはあなたの身体にとっては、異物に対するご自身の反応(違和感等)があること)④インプラントは人工物で血が通っていないため、冷たく感じます。⑤入れ替えの必要性 (現在、医療目的で体内留置に用いられている様々な人工物の耐久性を参考にして考えると約10年で入れ替えを検討する必要があります)⑥乳房形態は経年性変化に対応できないため、健側乳房と差がでてくるなどです。


 2) 皮弁・筋皮弁

 皮弁・筋皮弁は自家組織なので柔らかく、暖かみもあります。1度手術をすると入れ替えの必要はありません。乳房形態は多少経年性変化に対応できます。しかし以下のような欠点もあります。ドナーの採取部に傷あとや違和感が残ることや、手術侵襲が大きいことが問題でした。自家組織による再建は筋肉を採取する体の他の部位に長い傷跡ができ、その部分に拘縮(ひきつれ)、違和感や痛みなどが生じる可能性があります。手術時間も長くなり出血量も多く、体に対する手術侵襲が大きいため周術期の全身・局所合併症の発生率はその他の方法に比べてより高くなります。入院期間が3週間から約1カ月かかります。また社会復帰に期間がかかります。

 3) 脂肪注入移植

 自家脂肪は採取したものをそのまま大量に注入すると生着が不良で。しこり、嚢腫、脂肪壊死、石灰化等を生じるなどの問題があります。ご自分の脂肪注入移植単独は大量に注入すると生着が不良で吸収され、嚢腫形成(嚢腫を形成すると硬い袋ができて中の脂肪が死んでしまいます)、脂肪壊死、石灰化等を生じるなどの問題があります。

 4) 脂肪幹細胞との違いは?

 脂肪幹細胞は多分化能があり、脂肪細胞やその他の細胞に分化する能力を有していると報告されています(Human Adipose-derived stem cell :current clinical applications, Plastic Reconstr Surg 2012)ので、移植された細胞が脂肪細胞以外の細胞になる可能性があります。他方、培養脂肪細胞は多分化能がなく成熟した脂肪細胞なので脂肪になります。脂肪幹細胞を作製するときに100g以上の脂肪が必要で、その後酵素処理抽出した幹細胞と脂肪を混ぜて移植します。
脂肪が多い方はよいのですが、脂肪が少ない方はこの方法が難しい場合があります。


培養脂肪移植による乳房再建

 本治療は培養脂肪細胞とご自身の脂肪のコンビネーションで脂肪の生着が向上し、治療成績が良好になるという新しい治療法です。この治療の意義は従来の方法と比べると異物に対する反応がなく、最小限の犠牲で、ある程度自由な量のご自分の培養脂肪を移植しうることだと考えます。


<培養脂肪の治療の流れ>

1.脂肪の採取

 移植するために脂肪を採取する必要があります。脂肪採取は外来で、日帰りで行います。脂肪の採取は局所麻酔下で行います。通常、腹部又は大腿部から少量の脂肪を注射器で吸引採取します。採取のために約2〜3 mmくらいの傷はできますが、これが、外観上目立つことはないと考えます。脂肪採取と同じ日に培養に必要なご自身の血液を採取します。脂肪採取部の傷の処置はご自身で行っていただいています。数日で傷はふさがります。

2.培養期間

 脂肪採取から培養脂肪移植手術までには約1ヶ月程度の時間をいただきます。脂肪を採取してから次の移植手術が可能な状態まで最短で約1ヶ月程度の培養の期間が必要です。培養に時間がかかるケースもあります。また、せっかくいただいた脂肪から移植に適した細胞が育たない場合は、もう一度脂肪を採取する可能性もありますが、当院でもう一度脂肪を採取するケースはこれまでありませんでした。

3.移植手術

 実際の患部への移植手術は、局所麻酔と全身麻酔あるいは静脈麻酔との併用で行います。移植法は注射器を用いて患部へ注入移植します。本治療は培養脂肪細胞とご自身の脂肪のコンビネーションで脂肪の生着が向上し、治療成績が良好になるという治療法です。ですからこのとき、腹部や大腿からご自身の脂肪を再度吸引採取します。その量は患部に移植する量に応じて決められます。


 ~細胞採取から移植まで(実際の治療の流れ)を図でわかりやすく~




2 自家脂肪注入を用いた乳房再建


 培養脂肪細胞を用いないご自身の脂肪注入移植もおこなっています。
 この場合は下記の条件があります。


 1)少量を何回か(2〜3回)に分けて注入する

 2)乳房全摘など大量の脂肪が必要な症例には適応できません。

<よい適応>

 1)インプラントの上の前胸部の凹みや段差の改善

 2)インプラントのまわりとくに外側に皮下組織が少なく、触ると硬い、インプラントの形がわかるなどの変形の改善